お金に関する法律
相続法は1980年の改正以来のため、久しぶりの法改正となりました。
このページでは、新しくなった相続法の内容について解説します。
各見直し内容は施行日が異なるので注意しておきましょう。
改正相続法の概要と背景
今回相続法が改正されたのは、平均寿命が伸びて高齢化社会が進んでいる現代に合わせた新しい法案が必要になったからです。
遺産がある事で争いが起きたり不平等な分割にならないように、立場の弱い人への配慮が盛り込まれています。
改正相続法の概要は、大まかに分けると、
・残された配偶者への金銭的配慮
・遺言による紛争の防止
・会社の共有状態の回避
・一部の相続人以外の親族への金銭請求の容認
を柱にした内容になりました。
*各見直し内容は施行日が異なるので注意しておきましょう。
それぞれの改正内容を詳しく解説していきましょう。
残された配偶者への配慮
まずは、被相続人が亡くなった際に相続する配偶者への配慮が盛り込まれました。
具体的には、
・配偶者居住権の創設
・婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
の2点です。
配偶者居住権の創設
まず、2020年4月1日から施行される配偶者居住権の創設です。
現行の相続法では、貯金と合わせて居住している自宅も遺産に含まれてしまいます。
そのため、配偶者がそのまま被相続人名義の自宅を引き継ぐとなると、その自宅の評価額分を差し引いた貯金額が相続されます。
また、配偶者が居住する住居はあるけれど被相続人の貯金額が少なかった場合は、子供と遺産を分けるために自宅を売却して遺産の分割をしなければいけないというケースもありました。
この内容では、
・残された配偶者の住居が無くなってしまう
・住居が残っても金銭の分割が少ない事から生活費が足りなくなってしまう
という2つの問題が起きやすくなっていました。
そこで、改正案では、居住権を相続人で均等に分配する事によって、配偶者が貯金額を多く受け取れるようになります。
婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
2019年7月1日から施行されるのが、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置です。
これによって、生前贈与として居住用不動産を受け取っても遺産の先渡しとして認められないので、配偶者はより多くの遺産を受け取れるという仕組みになっています。
どちらの内容も、共通しているのは配偶者の遺産相続分が増えるという点です。
しかし、この改正相続法にはデメリットもあります。
配偶者居住権の創設に伴い、子供側は居住しない住居の所有権を貰う事になります。
貰うだけなら良いのですが、問題はその住居の所有権分の贈与税が課税されて点です。
このため、子供側が相続に応じなくなるというケースが想定されています。
遺言による紛争の防止
改正相続法では、被相続人の遺言書についての改正もいくつかありました。
遺言書の改正内容は、
・自筆証書遺言の方式緩和
・法務局における自筆証書遺言の保管精度の新設
の2点が盛り込まれています。
被相続人の遺言書への負担を減らす事で遺言書を残しやすくし、遺産相続の際の争いを避けるのが狙いです。
遺言書の改正内容について触れていきたいと思います。
自筆証書遺言の方式緩和
現行の相続法では、遺言書と財産目録は全て被相続人が自筆する必要がありました。
パソコンでの入力や代筆が認められていないので、被相続人の体調や病状によっては、遺言書の作成が困難なケースがありました。
しかし、2019年1月13日からは、パソコンでの遺言書の入力と通帳のコピーでの財産目録が認められます。
財産目録は、偽造防止のために署名捺印が必要ですが、被相続人の負担は大きく減ります。
また、パソコンでの遺言書の作成が可能になったので、入力をして貰って最後に署名捺印をするだけで遺言書が残せるという点も大きなメリットと言えるでしょう。
法務局における自筆証書遺言の保管精度の新設
自筆証書遺言の保管については、2020年7月10日からは法務大臣が指定した法務局で遺言書の保管をして貰える事になります。
被相続人が亡くなった後、残された遺族は全国の遺言書保管所に遺言書が保管されているか調べる事と、遺言書が残っていた場合にその写しを請求する事ができます。
これによって、自宅で保管していた遺言書をすり替えたり紛失させてしまう恐れが無くなり、より公平に遺産の相続を行う事ができるでしょう。
遺言書の保管のデメリットとしては、遺族が遺言書の有無を調べる手間が増えてしまうという点です。
遺言書をキチンと活用するためには、被相続人が遺言書の有無と保管所の場所を残しておくのが一番です。
その他の相続法の改正内容
相続法には、その他にも改正されている点がいくつかあります。
その他に改正された内容は、
・遺留分制度の見直し
・特別の寄与の制度の創設
の2点です。
これについて詳しく見ていきます。
遺留分制度の見直し
現行の相続法では、被相続人が会社を経営していた場合、残された遺族でその会社を共有する事になっています。
そのため、事業の支障になってしまい、経営が困難になるという問題が起きていました。
ですが、2019年7月1日からは、遺留分滅殺請求権を行使することで、会社の共有状態を回避する事ができるようになります。
妻が他界していて子供が2人いる場合、どちらか一方が会社を引き継ぎ、もう一方はその会社の資産を金銭債権として請求できます。
これによって、会社経営が複雑にならずに公平に遺産を分ける事が可能です。
被相続人が事前に遺言書で会社を任せたい人物を指定する事で単独で所有権を譲れるので、その会社で働く社員にとっても混乱が少なくなるメリットがあります。
特別の寄与の制度の創設
相続人以外の親族が被相続人の看護や介護を行なっても、現行の相続法では財産分与や金銭の請求権がありませんでした。
高齢化社会が進み、相続人以外の親族が看護や介護を担うケースが増えてきたことから、この内容について見直しがありました。
2019年7月1日からは、相続人以外の親族が被相続人の看護や介護をした場合、相続人に金銭請求が認められるようになります。
ただ、遺産の相続が複雑にならないよう、遺産の分割の権限はありません。
相続人に遺産の分割が終わった後で、相続人に金銭の請求を行う事で公平さを保つようになっています。
日本では、今でも長男の妻が長男の親の世話をするという文化が残っている地域が多々あります。
しかし、長男が早期に他界してしまうと、妻には責任だけが残りその労力に対しての対価がゼロになっていました。
今回の相続法の改正によって、より多くの人に、より平等に遺産が分割されるような見直しになっています。
まとめ
2018年7月に相続法の改正法案が成立しました。
・残された配偶者への金銭的配慮
・遺言による紛争の防止
・会社の共有状態の回避
・一部の相続人以外の親族への金銭請求の容認
が見直しされています。
被相続人が残した遺産は、遺族にとって金銭面での大きなメリットになる反面、時には大きな争いの原因になってしまうケースがあります。
今回の相続法の改正によって、遺族間での争いが少しでも減り、より多くの人が平等に遺産の分割ができるようになって欲しいと思っています。
誰にでも関係してき得る法改正なので今後もしっかりと見ていく必要があります。